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分子標的薬新薬で末期すい臓がん進行を止める

木曜日, 3月 1st, 2012 | Permalink

進行すい臓がんに初の治療薬

治験で延命効果を証明

膵臓は、胃や肝臓など多くの臓器に囲まれているため、がんが発生しても見つけるのが非常に難しい。そのため発見時には既に末期がんとなっていて手遅れという症例が多いことから、すい臓がんは難治がんの代表とされるのだ。

膵臓がんの80%以上は膵液を運ぶ膵管の細胞から発生する膵管がんだが、じつはがんの発生箇所で数種類に分類される。すい臓がんの中でも、希少な1%程度の発生率なのがすい臓の「膵神経内分泌腫瘍(pNET)」という種類のすい臓がん。このpNETというすい臓がんに罹ったのが、米アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズ氏だが、昨年10月に亡くなった。

日本人の場合に、膵臓がんに占めるpNETの割合はわずか1.1%で、増加傾向だが国内で治療を受ける患者は年間3千人前後しかいない。これまでは、このpNETというすい臓がんに対する保険承認された抗がん剤が無かったために、文字通り治療ができなかったのだ。

すい臓がんの治療は手術が基本だが、がんが進行していると完全な切除ができないために治療の選択肢は無いというのがこれまでのすい臓がん治療の実情だった。しかし、期待の新薬「エベロリムス」で治療環境は好転している。

「エベロリムス」(成分名)は、すい臓がんpNETに対する抗がん剤として、初めて2011年12月に承認された抗がん剤。副作用としては、皮疹や口内炎、感染症、爪の障害、鼻出血、間質性肺炎などがあるが、すい臓がん治療への効果は大きい。

エベロリムスは、がん細胞だけを攻撃して正常細胞へのダメージを少なくする「分子標的薬」の一種だ。がんの増殖や成長、血管新生にかかわる「mTOR」というタンパクの働きを選択的に妨げるのが薬効。既に「根治切除不能または転移性の腎細胞がん」に対する治療薬として日本でも10年4月から使われており、すい臓がんpNETの効果効能は追加承認となった。

エベロリムスの治験データでは、がんの進行リスクも65%も減少させるされている。さらに、日本人に限ると、「がんが悪化しない期間」を19.45カ月も延長する好成績を収めた。つまり2年以上の末期のすい臓がんでさえも2年近い延命が期待できるのだ。実際に治験参加者の中には、すい臓がん発見時に多発肝転移、リンパ節転移、骨転移の状態だったことから、切除手術不能=末期がんを宣告されたがん患者だったが、4年近く経過しても投薬治療を継続できている。

絶大な効果を誇る「エベロリムス」はノバルティスが販売する抗がん剤「アフィニトール」に配合されている。